受精率にとらわれない適応をしっかり考えて顕微授精を行うこと…②
みなとみらい夢クリニック 貝嶋 弘恒院長と家田 祥子培養士のお話
2016年7月発行『i-wish ママになりたい 体外受精と顕微授精2016』
みなとみらい夢クリニック
貝嶋 弘恒院長
年齢が高い場合、貴重卵子だからICSIで!
はたして、その選択でよいのでしょうか
年齢が高くなると、卵巣機能の低下から採取できる卵子の数も、卵子の質も低下してきます。そのため「この1個の貴重な卵子を確実に受精させるためにICSIを」と考えるかもしれません。
ですが、移植成績をみると年齢が高い方の新鮮胚移植でもCーIVFのほうが成績が良く、着床率からGS(胎嚢)が確認できる率、FHB(心拍)が確認できる率、そして出産率を比べても高く、また流産する確率はCーIVFの方が低いこともわかっていただけるでしょう。
貴重卵子だからこそ、よく適応を見極めることが必要なのです。
受精方法の選択は、排卵誘発から始まっています
転院されてきた患者さんの中には、これまで繰り返しICSIをしてきた方もいます。そういった方でも、精子の状態、卵子の状態をみてCーIVFでいけるだろうということも多くあります。
ただ、これまで繰り返しICSIをしてきたので、「CーIVFで行きましょう」とお話しても、なかなか納得していただけないこともあります。
ここで、精子に問題がなく、卵子の成熟度も十分だと判断できればICSIを選択することはないと考える理由をまとめておきましょう。
1つには、卵子に針を刺すことによるストレスの可能性です。年齢の高い方であれば尚更あると感じています。
卵子と精子が受精し、受精した胚が順調に成長するためには、卵子にストレスを与えないことが肝要で、これには卵子を育てる方法も関係してきます。その方法としては、本来発育してくる卵胞を中心にねらっていくため、誘発剤を使い過ぎないということが大切です。
薬の助けを借りなければ卵子が育たない方に、薬を使わずにということではなく、適切な方法と量、適切な観察と確認が必要ということです。
卵子を育てる方法には、とくにこだわりがあります
よりよい状態で受精に結びつけるために、また妊娠へ結びつけるために、どのようにして卵胞を育てるかはとても重要です。なぜなら、卵子の質が妊娠に大きく関わってくるからです。先ほども言ったように、大切なことは、誘発剤を使い過ぎないようにすることです。
とくに年齢が高く、卵巣機能が低下してきている方に強い刺激をすると、卵胞は育たず、質の良い卵子どころか卵子自体を確保することが大変難しくなります。
低刺激(少量の排卵誘発剤を使用する方法)か、卵巣機能低下の著しい方は自然周期(排卵誘発剤は一切使用せず、採卵が決まったら排卵を促す薬のみを使用する方法)で卵胞を育てます。採卵できる卵子は1個、2個ですが、比較的質の良い卵子が確保できます。主にこのような排卵誘発方法での卵子の回収率は90%以上です。
また、移植についてですが、年齢の高い方は凍結胚ではなく新鮮胚で移植することも多くあります。確かに凍結技術は上がり、凍結融解後の胚も、ほとんどのケースで問題なく移植できるまで回復するようになってきました。しかし、凍結自体が胚にとってストレスになることもあるようで、それは年齢の高い方の胚に起こりやすいのではないかと考えられます。そのため新鮮胚で移植することが多くなるのです。
よりよい状態で体外受精を進めるためには、適切な治療を行うことです。当り前のことですし、それは排卵誘発方法、受精方法、移植方法すべてにおいて大切なことです。
ですが、受精方法についていくらCーIVFの方がいいと考えても、精子の状態や卵子の状態からICSIを選択する必要も出てきますので、その場合にはよりよい方法でICSIができるよう培養環境を常に整えています。
ご夫婦によってはCーIVFの方がいい、ICSIの方がいいとご希望されることもあります。なるべくご希望に沿うようにと考えていますが、赤ちゃんを授かるためには適応を考えましょう。精子の状態からICSIが適切と考えられる方にCーIVFをトライしても受精しないことが考えられます。よくよく考えられて選択していただきたいと思っています。
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