受精率にとらわれない適応をしっかり考えて顕微授精を行うこと…①
みなとみらい夢クリニック 貝嶋 弘恒院長と家田 祥子培養士のお話
2016年7月発行『i-wish ママになりたい 体外受精と顕微授精2016』
みなとみらい夢クリニック
貝嶋 弘恒院長
体外受精と顕微授精を考えた時に
卵子に精子を振りかけて受精を待つ方法のことを、通常媒精(CーIVF)といい、卵子に1個の精子を注入して受精させる方法のことを顕微授精(ICSI)と言います。
受精の確率はICSIの方が高くなるのが一般的のようですが、日本産科婦人科学会では、「男性不妊や受精障害など、本法以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断される夫婦を対象とする」という見解を示しています。
その意味を考えれば、単に受精確率が高いからという理由でICSIを選択することには疑問が残ります。
もちろん、体外受精を進める上では受精しなければ始まりません。
そこで、みなとみらい夢クリニックの貝嶋弘恒院長と培養室長の家田祥子さんにICSIに関するお話をうかがいました。
これから治療周期を始めようとしている夫婦、あるいは今回の治療周期で妊娠に結びつかなかった夫婦、そして不妊治療を受けている多くの夫婦にとって、大いに参考になる話を聞くことができました。
顕微授精と体外受精どちらの受精方法が多いのでしょう?
どちらの受精方法が多いのか? については、みなとみらい夢クリニックでは、どちらもほぼ同じ割合という状況です。ただ、受精方法については適応がありますので、それを見極めて、どちらの方法が良いのかを選択することが大切です。ICSIは、ご主人の精液検査の結果が極端に良くない、また精巣から直接精子を回収する手術をした場合などが適応となります。
また、前回の体外受精でCーIVFで受精しなかった(受精障害を疑う)場合にはICSIを、と考えることが往々にありますが、それも適応なのかについては、卵子をきちんと観察して評価する必要があります。
前の周期で採卵した卵子に受精障害が起こったからといって、今回も受精しないとは限りません。毎回、違うホルモン環境のもとで卵子は成長しますし、卵子の質にも違いはあります。
卵子は、どれをとっても同じものはありませんから、卵子の成熟度や質の評価もして、受精方法をしっかり選択するべきで、精子の状態が極端に良くないという状況がなければ、前回、受精しなかったという事実も踏まえつつ、今回の受精方法を検討していきます。
受精方法と移植方法の違いから、妊娠・出産の割合をみると
体外受精を進めるには、もちろん卵子と精子が受精しなければその先には進めません。そして受精率からいえば、一般的にもいわれているようにICSIの方が高くなります。しかし、受精率の高さがそのまま妊娠率や出産率の高さにつながるか? といえば、そうではありません。
これについては媒精方法の違いによる移植成績のグラフ(下図)を参考にご覧ください。
凍結胚盤胞移植、凍結初期胚移植、新鮮胚移植と3種類の移植方法をCーIVFとICSIに分けて見てみると、いずれもCーIVFの方が良いというデータが出ています。ただし、患者平均年齢には差があり、ICSIを行った患者さんの方が、どの移植方法でも平均年齢が高くなっています。
また、ICSIが適応になるのは、男性不妊でも厳しい状況のご夫婦に多いので、妊娠率や出産率がC-IVFよりも低くなる傾向にあり、受精はしてもその後の胚の成長や着床、流産に大きく関係してきます。
そのためICSIを選択しても、CーIVFより妊娠率や出産率は高くならない状況となります。逆をいえば、CーIVF症例よりもICSI症例の方が成績が良ければ、それは適応でない、無駄なICSIが行われていると言えるかもしれません。
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