受精率にとらわれない適応をしっかり考えて顕微授精を行うこと…③
みなとみらい夢クリニック 貝嶋 弘恒院長と家田 祥子培養士のお話
2016年7月発行『i-wish ママになりたい 体外受精と顕微授精2016』
みなとみらい夢クリニック
家田 祥子培養士
安全なICSIのために
実際に受精を行う胚培養士の家田祥子さんは話します。
ICSIを行う場合、通常の顕微鏡よりもさらに高倍率で精子を観察できるIMSIで受精を行っています。
これによって遺伝情報の詰まった精子頭部に空胞などがないかを確認して形の良い精子を卵子に注入しています。
ICSIになるご夫婦は、精子が極端に少ないことなどが理由ですから、よりよい精子で受精をすることが大切ですし、それがご夫婦の安心感にもつながるものと考えています。通常のICSIとIMSIでは、受精率に差はないという見解もありますが、安心と安全を考えています。
C-IVFとICSIで胚の成長に差が出ることもある
CーIVFとICSIを比べるとICSIの方が受精率は高くなります。では、その後の胚の成長はどうかというと、培養期間を長くすればするほど差が出てきます。つまり初期胚ではあまり差がなくても、胚盤胞まで培養すると差が出てきて、やはりCーIVFの方が成長は良いようです。この要因として、ICSIという人為的な操作をすること自体が卵子にストレスを与えているのではないかと考えています。
胚の成長は、排卵誘発法でも違いが出ます
受精方法によって差が出るとお話しましたが、それは排卵誘発方法にも現れると感じています。誘発剤の使用が少ない卵子の方が状態もよく、受精後の胚の成長も良い傾向にあります。
ICSIは、精子が極端に少ないご夫婦が対象になりますが、精子だけではなく卵子からもICSIが適切か、CーIVFが適切かを検討します。これは卵子に第一極体があるかどうかが重要なポイントになり、第一極体がない未成熟卵子は、成熟するまで培養が必要になります。通常、サイズの小さい卵子は未成熟で、大きい卵子は成熟していると考えがちですが、そうとは限りません。サイズだけではわからないこともありますので、すべての卵子で確認をして受精方法を検討しています。
卵子は1つ1つに違いがありますが、より自然な状態で育った卵子、より自然な状態で精子と受精した卵子の方が、受精後の成長は良いという実感があります。これについては、今後データとして報告できるようにしたいと考えています。
胚培養士として日々考えること
ご夫婦から預かった卵子や精子は、命になるものです。その意識を忘れずに卵子や精子、胚を扱っていきたいですし、そうするように後輩たちの指導にあたっています。
そして、胚培養に関することだけでなく、患者さんご夫婦がどのような思いで治療をされているかを患者さん目線で考えることも大切だと思っています。
そのためには、「わたしだったら、どうしてほしい?」と考えてみることが胚培養という仕事をするうえで重要だと考えています。
そして、将来、赤ちゃんになる命あるものを毎日扱っている、その緊張感を持って、日々、卵子と精子、胚に向き合っています。
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