夫婦間にズレのない治療をするために…①

京野アートクリニック高輪 京野 廣一理事長のお話
2017年1月発行『i-wish ママになりたい 男性不妊』


京野アートクリニック高輪
京野 廣一理事長


 なかなか妊娠しないな? と不安に思っているご夫婦の中には、ご主人のほうに妊娠を難しくしている原因がある場合があります。 

 また、ご夫婦が治療を始めたとき、その主体は女性で診察するのも産婦人科医というのが一般的です。そこで男性側に不妊原因があれば、その専門は泌尿器科となり、泌尿器科への受診を勧められることになります。

 しかし、京野先生は自分のところで夫婦どちらも診察します。日本で体外受精が始まった当初から第一線で活躍してきた不妊治療のエキスパートである京野先生が、一早く女性だけでなく、男性不妊にも力を注いできたのには理由があります。 

 その理由含め、男性不妊についてお話をうかがいました。 


夫婦を一緒に診察すること 

 不妊症の原因を男女でみていくとおよそ半々です。

 ですから、不妊治療を進めるとき、ご夫婦を一緒に診ていかねばならないのに、ご主人に不妊原因があれば泌尿器科を紹介して、受診していただく必要がでてきます。 

 私が不妊治療を始め、このように夫婦を一緒に診察できないという現実に直面し、そのときに、これでは最善の治療とは言い切れないと思いました。 

 ご夫婦は、『赤ちゃんがほしい』という同じ目的に向かって不妊治療を受けに来ます。それに対し、医師としての私も同じ気持ちで治療に臨みますから、なんとか夫婦を一緒に診察することができるようになろうと考えました。そして多くの泌尿器科の先生のもとで男性不妊を診察するための勉強を積んできました。 

 それが、ご夫婦にとって、とても大切なことだと考えたのです。 それは1995年のころですから、もう20年近くも前のことになります。 


不妊治療における夫婦間の治療のずれをなくすために

 ご夫婦をいっしょに診れないことから起こる問題も感じていました。それは、夫婦が別々に治療を受けることで、夫婦間に気持ちのズレや治療に対する考え方や理解の違いが生じることがあるということです。 

 治療では、はじめに検査が必要になります。 

 夫の検査については精液検査が主になり、精液検査に問題がなければ、妻の検査結果と年齢などを考慮しながら治療計画を立てます。

  精液検査に問題があった場合は、どこで何が問題になっているのかを診察するためにさらに詳しい検査が必要になり、それが泌尿器科の専門となっていきます。そこで夫を泌尿器科で診てもらうのですが、男性不妊治療が始まると主治医も夫婦で違う環境がでてきますから、そこでご夫婦の不妊治療をしていく上でのズレが生じることがよくあったのです。

  一般的に、女性は年齢を重ねると妊娠し辛くなりますが、それを熟知している泌尿器科医は、20年ほど前は多くありませんでした。そして、そのような主治医の認識の差は、夫婦間の治療に対する認識の差につながってしまうのです。

  不妊治療は、夫婦のどちらに原因があっても、治療の主体は妻のほうになります。妻は婦人科で、夫は泌尿器科で受診した場合、その診察や治療方針によっては、それぞれの主治医から異なる意見を言われることがあります。

  「先生に体外受精をしましょうと言われた」と妻が話すのに対し、夫は「うちの先生はまだ人工授精で大丈夫と言っていた」と夫婦間の話にも食い違いが起こるわけです。 


男性不妊を診る

 夫に不妊原因がある場合、このようなズレを解消していくためには、夫婦を一緒に診ていく必要があり、私自身が男性不妊を診られるようになる必要がありました。

  視診や精巣の触診などもできなくてはなりません。そこで泌尿器科の男性不妊領域の診察方法を東邦大学泌尿器科の白井先生をはじめ、男性不妊の診療をする多くの泌尿器科医のもとで勉強しました。 

 そして、精巣の触診、精巣の大きさの確認、精索静脈瘤の有無、また精巣腫瘍の有無などの診察方法も習得し、さらに精巣内精子回収術(シンプルTESE)も自分で行えるように学び、これまで多くの手術を行ってきました。 



夫婦間にズレのない治療をするために…②
夫婦間にズレのない治療をするために…③


京野アートクリニック高輪 京野 廣一理事長のお話
2017年1月発行『i-wish ママになりたい 男性不妊

i-wishママになりたい

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