夫婦にとって子どもができるということは、そこに結びつくだけのしっかりした卵子と精子があるということです。それが夫婦生活の延長線上にあることならとくに問題はないのですが、夫婦生活ではなかなか妊娠できない場合、不妊治療の手助けを借りることになります。

　そのときに、夫婦を診ていくのが生殖医療の医師です。

　一般的には産婦人科医を連想しますが、それは女性側に原因がある場合で、男性側の原因を専門に診療するのは、泌尿器科の医師となります。

　今回、取材で訪ねたのは、この男性不妊を専門に診察する泌尿器科で生殖医療専門医として認定されている宮地系典先生です。

　さっそく宮地先生に男性不妊の現状や精子についてのお話を伺いましょう。

診るのはもちろん男性不妊全般ですが、レディースクリニックや病院から依頼されて詳しい精液検査を行っています。とくに精液所見があまりよくないケースで、体外受精を行う際に精液を採取し、検査選別して良好な精子を届けるよう連携して診ています。

　今の体外受精では、たとえば顕微授精を行うのに、精子の選別を運動性や形態などの見た目で選んでいます。医師のもとで、これを行うのが胚培養士ですが、ときとして精子の選別に困ることもあるでしょう。

　「選んだ精子は本当に大丈夫だったのか」とか、形も良く運動性も良いのに、妊娠までいかないのは「なぜだろう？」と考えることは、必ずあるかと思います。

　それに対して、私のところでは精子のＤＮＡ損傷なども診ながら、この精子だったら大丈夫だろうと選別し、クリニックや病院で待つ奥さまにより質の高い良好精子をお届けすることができます。

選別において実施しているのが、沈降平衡法、沈降速度差遠心分離法です。

　生殖医療の現場では、「精子の形をしていればまず大丈夫でしょ」というスタンスでいらっしゃる方も多いように思われます。

　しかし、精子を選別していくということは、その精子に異常がないかどうかをみていくことで、私のところでは、精子を精製分離し、良好精子を取り出して、それをまた検査しています。

　このときに使用する専用の培養液と、遠心分離機の速度を変えて検証を行うなどの新しい技術を用いますが、この新しい方法を用いることにより、結果として体外受精での成績や、妊娠までの治療成績をアップするものと確信しています。

　また、精子はＤＮＡ断片化などの損傷が起こる場合もあります。精子は自分ではＤＮＡの傷を修復することができないので、受精することで卵子がその傷を修復します。

　ただ、断片化が何カ所かで起きている場合には修復は難しいと言われています。こうして精子のＤＮＡを修復する卵子ですが、この卵子そのものを治療して強くしていく方法は今のところありません。

　分かっていることは、精子の質が悪いことで流産に結びつくこともあるということ。そして、卵子の質の低下も妊娠を難しくする原因になるということです。

　僕らができることは、いかにいい精子を選別して卵子の元に届けるか、提供できるかということなのです。

　ＤＮＡが損傷していない精子を選んで卵子に提供してあげないと、妊娠継続のみならず染色体異常を持つお子さんが生まれてくる可能性は否めません。ですから、子どものことを考えれば、私たち生殖医療に関わるものが頑張らなくてはいけないことだと思っています。

精子のＤＮＡに断片化が起きてしまう一番有名な病気として精索静脈瘤があります。この治療を行っていくことで４割から５割の方が自然妊娠に至っているデータもありますから、精索静脈瘤の診療は大切です。治療のし甲斐も特別に感じています。

　ただ、原因が他にある方をどうするかの課題もあります。特にホルモン値をどうやってあげていくか、ビタミンや漢方で体質を変えていけるのか、そういうことも検討しています。

元町宮地クリニック　宮地系典先生のお話

2019年1月発行『i-wish ママになりたい　男性不妊の検査と治療』

元町宮地クリニック