精子が悪いから顕微授精しかない!?でも、その前に男性不妊の治療も可能です…②

エス・セットクリニック 佐々木 豊和医師と中條 弘隆医師のお話

2017年1月発行『i-wish ママになりたい 男性不妊』


エス・セットクリニック
中條 弘隆医師


1億分の1のエリート精子をいかに選び出すか

編集部●佐々木先生に精子についてのお話をお聞きしましたが、次に精子の選択についてはいかがでしょう。

中條医師■1回の射精で女性に提供される精子は一般には3~5億個です。その中から女性の卵管膨大部まで到達して受精を競うのは、わずか5~7個。対して待ち受ける卵子は1個です。実に1億分の1の確率の競争を勝ちぬいた精子が受精し、ベビーへの道すじをたどるのです。これだけ厳しい競争を勝ち抜いた精子だからこそ、良い卵子と結びついた時に70~80年も生き抜くような人になるといえるでしょう。 

 自然界は1億分の1という熾烈な競争をさせることで、すぐれた精子を選び抜いているのです。  これが、顕微授精をする際には精子を人の手で選んでいますよね。この選んだ精子が果たして1億分の1の確率を勝ち抜いた逸材に匹敵するかどうか、そのような精子をしっかり選べているのかどうか、泌尿器科医として精子を考えた時に疑問を感じることがあります。

編集部●その疑問からどのような診療を?

中條医師■正直、自然界と同じように、競争に勝ち残る1匹の精子を選ぶことはとても難しいでしょう。でも、自然界に近づけるように選択の基準を厳しくし、高い基準で精子を見つけることは可能です。それが当院で実施している高精度精子検査Bコースです。

  現在、婦人科で実施されている一般の精子検査は、精子の数と運動率を重視しています。ですが、精子は数が多くて動いていれば良いというものではありません。

  高精度精子検査Bコースでは、すぐれた精子を選び出したうえで、その質を調べています。精子のエリートとしての4つの要点をチェックしています。

➊ DNA二重鎖切断陰性率   切断されていない、きちんとした遺伝情報を持っている精子が何パーセントいるのかを確認します。 

➋ 耐凍能  精子を一度凍らせた後に溶かして生き残るかを確認します。耐凍能を持っていると体外受精などARTをするときに精子凍結保存が可能となり、作戦の幅を広げることが可能です。また、凍結・融解を経て生き残る精子は生命力が強いので、ARTで使用する有力な候補になります。

 ➌ 先体反応誘起能  精子が卵子に侵入するには先体が必要です。 先体は受精を誘導するいわばナビゲーターなのですが、この先体が搭載されていない精子も多くいます。ですから、先体があるか、先体の性能が良い精子がどれくらいいるかを確認します。

 ➍ ミトコンドリア局在  精子の首のあたりにはミトコンドリアがあり、精子の直進能力を担っています。これがないと卵子まで素早く行き着くことができません。 他の精子よりも先んじて卵子にたどり着くための動力源なのです。

 編集部●より専門的ということですね。 


精索静脈瘤の手術後に自然妊娠するケースも

編集部●他に何か特徴的なことはありますか?

中條医師■男性不妊の原因として精子の質とともに、ぜひチェックしてほしいのが精索静脈瘤です。

 今、男性不妊といわれる男性には精索静脈瘤の方が非常に多いのです。当院にみえる初診男性の10人中4~6人くらいが精索静脈瘤ですから。

  精索静脈瘤は手術の適応となり、私一人で年間70件ほど手術をしていますが、手術後に精子数が3~4倍に増えるなど、精子の状態が良くなる方が多くいらっしゃいます。

  手術前は、婦人科で「妊娠はあきらめたほうがいい」といわれたご夫婦が夫婦生活で妊娠するケースもあります。  手術で精子の数がそれほどかわらないケースでも、先に説明したDNA二重鎖切断陰性率、耐凍能、先体反応誘起能、ミトコンドリア局在などの数値がアップし、質の向上が見られるのです。

  ですから、今後も注意深く、さらに一生懸命に男性不妊の診療を進めていきたいと思っています

編集部●貴重なお話をありがとうございました。今後もご夫婦のために、どうぞご活躍ください。 


精子が悪いから顕微授精しかない!?でも、その前に男性不妊の治療も可能です…①


 エス・セットクリニック 佐々木 豊和医師と中條 弘隆医師のお話
2017年1月発行『i-wish ママになりたい 男性不妊