研究は患者さんのため…その③


 山下湘南夢クリニック院長 山下直樹先生のお話 『i-wish ママになりたい 不妊治療の今』より


患者さんの信頼に応えたい! それが研究に向かう原動力です。

 不妊治療施設の多くが研究をしています。それは患者さんの希望に応え、夢を実現するため。 クリニックでは、実際にどのように研究を行っているのでしょう。


山下湘南夢クリニック 研究室室長
中田久美子胚培養士


取組まれている研究。その具体的な話をお聞かせ下さい 


❶培養液の成分分析から胚の状態を知る 

胚を培養した後の培養液を成分解析すると、悲しいときに脳下垂体から出るホルモン「ノルアドレナリン」が検出されました。見た目には良い胚であってもノルアドレナリンの分泌量が多いと着床しづらい、妊娠しづらいということがわかってきました。  遺伝子解析の場合、実際に細胞を採取して確認する必要があるのですが、培養液の成分解析は尿検査のようなもので済みますからリスクを伴いません。

 ❷水素を使って精子を元気にする方法

精子が動かない、数が少ないといった男性側の不妊問題の要因として、環境ストレスや生活習慣などがあげられていますが、その主な原因は活性酸素です。  水素を使う利点としてあげられるのが、細胞を強く傷つける活性酸素だけを減らせる点です。ただ、活性酸素にもいろいろあって、からだに必要なものもあります。そのため活性酸素をすべて除去すると問題も出てきますから、細胞を強く傷つけるものだけを水素を使って消すわけです。  実験では、運動性の消失した精子や凍結融解後に運動性の低下した100人以上の精子で試したところ、90%の割合で運動性を回復したのです。  安全性はマウスで検証を行っており、生まれた子どもは元気に育っています。 

❸卵子の体外成熟培養についての研究 

未成熟卵子の体外成熟率を上げる研究で、具体的には培養液の成分や条件を調整することです。この結果、これまで60%程度だった成熟率を80%程度まで上げることができました。  

❹細胞質置換による卵子の若返りの方法

12年以上前にマウスで細胞質置換技術を開発し、倫理的な問題を検討しつつ、臨床応用に向けて準備しています。 

❺ナノバブルを活用して培養液の酸素濃度を上げる研究

本来、培養液の酸素濃度はあまり高くありません。この研究は、ナノバブル入りの培養液で酸素濃度を増やすことで卵子の発育をよりよくできないかというものです。  凍結胚を戻す際にも培養液で少し培養をしますが、その際、ナノバブルの入った培養液を使用すると回復が早く、元気になる傾向がみられます。このことから妊娠する可能性も高まるのではないかと研究しています。 

❻ピエゾマイクロマニピュレーターによる、よりやさしい顕微授精法の改良 

通常の顕微授精と比較して、卵子への圧迫を減らす工夫を行い、マウスでのトレーニング後に、臨床導入しました。

 ❼円形精子細胞の凍結方法および受精についての研究

円形精子関係では、2つの研究をしています。 

 一つは、円形精子細胞からの妊娠は可能か、ということです。今のところ、可能性はあると考えられてはいるのですが、安全面などでの課題も多く感じられています。既存の研究発表などに問題はないかなどの検証も含めて研究をしています。  

もう一つは、円形精子細胞の凍結方法についてです。この研究では、水素を使ったりして、現在、研究を進めています。 

編集■お話を伺っていると、ずいぶん難しい話のようにも感じますが、やがては患者さんに良い結果をもたらすだろう研究なのですね。きっと社会でも期待していることでしょう。ぜひ頑張って下さい。  そして最後に、研究をされていらっしゃる中田さんから患者さんへのアドバイスをおお願いします。 


 最後に患者さんへの アドバイス 聞きたいことは 専門スタッフに質問を! 

中田■クリニックに来ると緊張して聞きたいこともきけないという方もいるのではないでしょうか。患者さん自身、ともすれば医師や培養士の言いなりになってしまうかもしれません。でも、そうならないように、気になることはどんどん医師やスタッフに質問して下さい。もしもその時に質問に答えられないような病院や培養士であれば、あなたはあなた自身の情報を知らないでいることになります。それは好ましいことではないと思いますので、自分自身の情報はしっかり知って納得しながら病院で治療を受けてほしいと思います。   「今、私の胚はどんな状態ですか?」とか「この卵子はどうですか?」とか気になることはきっとあることと思います。また、今はネットなどでも不妊関連の情報があふれていますが、情報はしっかり精査して得て下さい。よく患者さんが集まるコミュニティなどもありますが、患者さんの状態は個々に違いますから、他の方が上手くいったからといって、自分も同じとは限りません。  そのときに「どうして自分は上手くいかなかったんだろう」と悩んでしまう原因になることもあります。できれば学会レベルのきちんとした知識を得るようにしてほしいですし、ぜひ、専門家に聞いてほしいです。  培養士と話せるクリニックは少ないかもしれませんが、当院ではそれが可能です。何かありましたら遠慮せずに「培養士と話をしたい」とお伝え下さい。


研究は患者さんのため…その①
研究は患者さんのため…その②


 山下湘南夢クリニック院長 山下直樹先生のお話 
 (2014年11月30日発行 『i-wish ママになりたい 不妊治療の今』の記事です )

i-wishママになりたい

不妊治療専門誌i-wishママになりたいの中で取材したクリニックを紹介しています。